📙 衛星基地局間のハンドオーバ¶
質問者: Shigeru Morifuku
回答者: Claude Opus 5.5
回答日: 2026/11/3
免責: 回答者は AI であり、間違えることがあります。
🟩 Q: 人工衛星が基地局のとき、人間が立ち止まっていても人工衛星は動くので、ハンドオーバするのかしら。¶
はい、静止衛星以外ではハンドオーバします。ユーザーが止まっていても、基地局側が動いて離れていくからです。
🟨 軌道によって違う¶
軌道 |
高度 |
地上から見た動き |
ハンドオーバ |
|---|---|---|---|
GEO(静止軌道) |
約36,000 km |
空の一点に止まって見える |
衛星の動きが原因のハンドオーバは基本的に起きない |
MEO |
数千〜2万 km |
ゆっくり動く |
数十分〜数時間に1回 |
LEO(Starlinkなど) |
約500〜1,200 km |
秒速約7.5 kmで空を横切る |
頻繁に起きる |
LEOの衛星が1機見えている時間は数分〜十数分しかありません。そのため、ユーザーが止まっていても次々と別の衛星に乗り換えます。Starlinkは15秒ごとに衛星とビームの割り当てを組み直していると言われています。
🟨 地上のセルラーとの違い¶
1. セルの作り方が2種類ある
Earth-moving cell:ビームが衛星に固定されていて、セル(衛星が電波を届ける範囲)が地表をなめるように移動する。止まっているユーザーの上をセルが通り過ぎていくので、ビームからビームへ、衛星から衛星へとハンドオーバが続く。
Earth-fixed cell:衛星がビームの向きを変えて、地上の同じ場所を照らし続ける。セルは地上に固定されたままなので、変わるのは担当する衛星だけ。3GPP Rel-18では、この衛星の交代をPCI(セルID)を変えずに行う方式(satellite switch with resync)が入っている。
2. 電波の強さでは切り替えの判断がしにくい
地上局では、遠ざかるとRSRP(受信電力)がはっきり下がるので、それを見て切り替えを決められます。衛星はもともと遠いので、セルの中心にいても端にいても受信電力の差が小さく、この判断がしにくい。そこで3GPPのNTN(Rel-17〜)は、次の情報を使うConditional Handoverを用意しています。
時刻:軌道は予測できるので、「何時何分にこのセルが終わる」と事前にわかる
位置:端末のGNSS位置と、セル中心からの距離
つまり、軌道から予定を立てておく「スケジュールされたハンドオーバ」に近いものです。
3. フィーダリンクも切り替わる
衛星が単なる中継器(transparent方式)で、基地局(gNB)が地上にある場合は、衛星と地上ゲートウェイの間の回線(フィーダリンク)も衛星の移動に合わせて別のゲートウェイへ切り替える必要があります。ユーザー側の回線(サービスリンク)とは別の問題です。
4. ドップラーと遅延がずっと変わり続ける
LEOではドップラーシフトが数十kHz規模になり、伝搬遅延も刻々と変わります。端末は衛星の軌道情報(エフェメリス)と自分の位置から、周波数と送信タイミング(TA)を自分で補正し続けます。
🟨 まとめ¶
地上の携帯では「人が動くからハンドオーバする」のに対して、LEO衛星では「基地局が動くからハンドオーバする」という逆の関係になります。その代わり衛星の動きは軌道力学で正確に予測できるので、「いつ、どこへ切り替えるか」を前もって決めておけるのが大きな違いです。
🟩 Q: 位置登録の負荷が高そう。常にアップデートしているの?¶
いいえ、止まっている端末が衛星の移動に合わせて位置登録をし直すことは基本的にありません。そうならないように設計されています。
🟨 待ち受け中(アイドル)は「どの衛星か」を管理しない¶
位置登録(TAU、5Gでは Registration Update)は、端末が「どのトラッキングエリア(TA)にいるか」をコアネットワークに伝える仕組みです。どのセルや衛星につながっているかは関係ありません。
3GPPのNTN(Rel-17〜)では、TAを地上に固定する(earth-fixed TA)と決めています。
TAは地上の地理的な区画として決める
衛星やビームが動いても、地上のある地点が属するTAは変わらない
止まっている端末から見ると、TAは変わらないので位置登録は起きない
アイドル中は、衛星が入れ替わっても端末が自分で次のセルを選び直す(セル再選択)だけで、ネットワークへの信号は出しません。
🟨 ビームが動くセルでの工夫¶
Earth-moving cell では、ビームが地表を移動するので、1つのセルがその時々で照らすTAが変わっていきます。これには次のように対応します。
複数TACの報知:1つのセルが複数のTAC(TAの識別番号)を同時に報知できる(SIB1でPLMNあたり最大12個)。
登録判定は端末側:報知されているTACのどれか1つでも自分の登録済みリスト(TAIリスト)に入っていれば、端末は位置登録しない。
TACの切り替え方:ビームが移動するにつれて、報知するTACを少しずつ足したり外したりする方式(soft update)と、ある時刻にまとめて切り替える方式(hard update)がある。soft の方が、多数の端末が一斉に登録しに来る事態を起こしにくい。
さらに、AMF(コアネットワークで登録と移動を管理する装置)が端末のGNSS位置を使って、登録エリアを適切な大きさに調整することもできます。
🟨 負荷が本当に問題になるのは通信中¶
ご指摘の負荷が効いてくるのは、通信中(RRC_CONNECTED)の端末のハンドオーバです。セル全体の端末がほぼ同時に次の衛星へ移るので、信号が一度に集中します。対策としては次のようなものがあります。
Conditional Handover:切り替え先と条件(時刻や位置)を事前に端末へ設定しておき、その時が来たら端末が自分で切り替える。切り替えの瞬間に個別のやり取りが集中しない。
Rel-18 の satellite switch with resync(Earth-fixed cell の場合):PCIを変えずに担当衛星だけを交代させる。端末ごとのハンドオーバ手順が要らず、報知された交代時刻に合わせて同期し直すだけで済む。
グループハンドオーバ:複数の端末をまとめて切り替える方式。研究や提案の段階ではよく議論されている。
🟨 Starlinkは別体系¶
ここまでの話は3GPP NTN(衛星から直接スマホにつなぐ方式など)が前提です。Starlink本体のアンテナ端末は独自の方式で、常時接続を前提に、中央のスケジューラが15秒ごとにどの衛星・どのビームを使うかを割り当てています。携帯網のような「位置登録」の概念とは別物です。
まとめると、位置登録は地上に固定したTA単位にして衛星の動きと切り離しているので、止まっている端末は登録し直しません。衛星の移動が負荷になるのは通信中のハンドオーバの方で、そこは軌道が予測できることを使った事前設定で集中を抑えています。
🟩 ドップラーシフトって電波の周波数がゆらぐの?端末側も大変そうだ¶
揺らぐというより、決まった形でなめらかにずれていきます。ずれ幅がとても大きいので、端末側の負担は増えます。
🟨 ずれ方は予測できる¶
衛星が近づいてくる間は周波数が上がり、真上を通る瞬間(最接近)にずれがゼロになり、遠ざかる間は下がります。救急車のサイレンと同じ原理です。グラフに描くとS字の曲線になり、軌道がわかれば計算でかなり正確に予測できます。
🟨 大きさの目安(LEO、高度600 km、速度 約7.5 km/s)¶
(\(f_d\):ドップラーシフト、\(v_r\):端末から見た衛星の接近・後退速度、\(c\):光速、\(f_c\):搬送波周波数)
地上の高速鉄道(500 km/h、2 GHz) |
LEO衛星(2 GHz) |
LEO衛星(Ka帯 30 GHz) |
|
|---|---|---|---|
最大ずれ |
約1 kHz |
約±48 kHz |
約±700 kHz |
変化の速さ |
ほぼ一定 |
最大で数百 Hz/秒(真上を通るとき) |
さらに15倍 |
LTEやNRの副搬送波(OFDMで並べる細い搬送波)の間隔は15 kHzです。±48 kHzのずれは副搬送波3つ分以上にあたり、補正しないと隣の副搬送波と干渉して信号が読めなくなります。地上の高速鉄道と比べると桁が2つ違います。
🟨 補正の分担(3GPP NTN)¶
下り(衛星から端末)
衛星と地上局の間の回線(フィーダリンク)で生じるずれは、ネットワーク側が補正する。
端末と衛星の間の回線(サービスリンク)のずれは、ネットワーク側がビーム中心を基準にあらかじめ補正(事前補正)することもできる。
残ったずれは、端末が同期信号を追いかけて合わせる。
上り(端末から衛星): ここが端末の負担になる部分です。
端末は自分の位置をGNSSで測る。
衛星の軌道情報(エフェメリス)は報知情報(SIB19)で受け取る。
この2つから衛星との相対速度を計算し、送信周波数を事前にずらして送る。
衛星までの距離も時々刻々と変わるので、送信タイミング(TA)も自分で計算して更新し続ける。
そのため、Rel-17のNTN端末はGNSS搭載が前提です。安価なIoT端末(NB-IoT/eMTC)は、GNSSと通信を同時に動かせないことが多いです。そこで、一度測った位置をどれくらいの時間使い続けてよいかを決める「GNSS有効期間」が規定されていて、期限が来たらいったん通信を止めて測位し直します。
🟨 普通のスマホがそのままつながる方式¶
Starlinkの Direct to Cell のように、改造していない既存のLTEスマホが衛星とつながるサービスもあります。端末はドップラーのことを何も知らないので、衛星側がビームごとにずれを事前補正して、端末から見ると地上局と同じように見せています。ビームの中心と端の間に残る差は、端末の通常の周波数追従でなんとか吸収できる範囲に収めています。
まとめると、ずれは大きくても予測できるので、GNSSと軌道情報で計算して打ち消すのが基本です。その計算を端末にさせるのが3GPP NTN方式で、衛星側が全部引き受けて普通のスマホのまま使えるようにしたのが Direct to Cell 方式です。
🟩 端末ごとに周波数を調整するなんて神業だ¶
本当によくできていますね。ただ実際は、端末1台ずつの周波数を合わせているわけではなく、ビーム単位でまとめて大まかに合わせ、残りを端末と受信機で吸収する二段構えです。
ビーム単位で合わせれば、端末どうしの差は小さい
衛星までの距離が600 km以上あるのに対して、1本のビームが照らす範囲は直径数十 km程度です。衛星から見ると、ビーム内のどの端末もほぼ同じ方向にいます。そのため、ドップラーの大部分(数十 kHz)はビーム内の全端末に共通で、端末ごとの違いはせいぜい数 kHz程度に収まります。衛星はビーム中心の値だけを計算して全体をずらせばよく、軌道から計算できるので、やっていることは「ビームの数だけ周波数の引き算をする」に近いです。
残りの差は既存の仕組みで吸収する
下り:端末はもともと地上局と自分の水晶発振器のずれ(数 kHz)を同期信号で合わせる機能を持っているので、残差はその範囲で吸収できる。
上り:各端末の電波は少しずつずれた周波数で届くので、衛星側の受信機が端末ごとにずれを推定して補正する。地上の高速鉄道向け基地局でも行っている処理の延長です。
つまり「全端末の周波数を個別に合わせる」のではなく、「大部分は軌道計算でまとめて打ち消し、残った小さな差を既存の仕組みで吸収する」設計です。
それでも、時速2万7千kmで飛ぶ衛星の上でビームを何本も作り、それぞれの補正値を絶えず更新しながら地上局のふりをしているのですから、神業というのはそのとおりだと思います。
🟩 東京向けのビームと大阪向けのビームを1つの衛星が受け持つことあるの?1箇所だけ?¶
はい、よくあります。1機の衛星が受け持つのは1か所だけではなく、同時に何本ものビームを出して離れた場所をまとめて担当します。
🟨 東京と大阪は1機の視野にすっぽり入る¶
Starlinkの高度約550 kmの衛星で、地上から仰角25°以上に見える範囲を計算すると、半径およそ900〜1,000 km(直径約2,000 km)になります。東京と大阪の距離は約400 kmなので、両方とも1機の視野に収まります。九州から東北あたりまで同時に見えている計算です。
🟨 何本ものビームを同時に出せる¶
衛星には多数の小さなアンテナ素子を並べたフェーズドアレイアンテナが載っていて、各素子の位相を電子的に制御して電波の向きを決めます。機械的に動かさずに、向きの違うビームを同時に複数本作れます。そのため、東京向け、大阪向け、名古屋向けといったビームを1機が並行して出せます。
ビームの本数には上限があるので、次のような工夫も組み合わせます。
ビームホッピング:限られた数のビームを時間で切り替えながら、多くのセルを順番に回る。需要の多い地域には滞在時間を長くとる。
周波数の再利用:東京と大阪のように十分離れたビームどうしは、同じ周波数を使っても干渉しない。近いビームどうしだけ周波数や偏波を変える。
🟨 前の話とのつながり¶
ドップラーシフトは衛星から見た方向で決まるので、東京向けと大阪向けのビームではずれ方が違います。そのため補正値はビームごとに別々に計算します。先ほどの「ビーム単位でまとめて大まかに合わせる」は、こうして複数のビームそれぞれで同時に行われています。
🟨 静止衛星はさらに広い¶
静止衛星(高度36,000 km)からは地球の約3分の1が見えます。最近の大容量衛星(HTS)は、日本全体を数十〜百本程度のスポットビームで細かく分けて担当するのが一般的です。
まとめると、1機が見ている範囲は日本列島の大部分に及び、その中を多数のビームで細かく分けて同時に担当しています。